ドラッグストアの「便利さ」と「安全」の綱引き

新聞記事が報じたこと(今回の発端)

今回の新聞記事では、ドラッグストアチェーン「コクミン」の一部店舗で、本来は薬局ごとに専従が求められる管理薬剤師が、複数店舗を兼務するような形で運用されていた疑いが報じられました。
欠員が出た際に営業を続けるため、ルールを外れてしまったのではないか――という内容です。ここで重要なのは、単なる現場の判断として片づけるのではなく、なぜそのような判断が起きたのかという“背景”です。

以前から指摘されてきた「チェーン店の構造問題」

こうした問題は、たまたま起きた不祥事というより、ドラッグストア業界が抱えてきた構造課題の延長線上にあります。
大手チェーンは合併や買収で規模が大きくなり、会社の仕組みも階層も増えやすい。すると、現場の事情と上の判断がズレたときに、無理が起きやすくなります。

“歪み”は、合併そのものより「評価のされ方」で生まれる

「合併や買収が悪い」と言い切るのではなく、問題が起きやすいのは、現場の評価がどうしても次の方向に寄りやすいからです。

  • 売上が落ちていないか
  • 営業時間を短くしていないか
  • 店を止めずに動かしているか
  • 拡大のペースが落ちていないか

もちろん商売なので数字が大事になるのは自然です。
しかし薬を扱う現場では「人が足りないなら無理をしない」「安全のために一部を止める」という判断も必要です。評価のされ方が“営業優先”に偏ると、現場は「止めたくても止められない空気」に追い込まれます。

ただし、ドラッグストアは今や生活インフラでもある

ここが、単純な批判で終わらせてはいけない点です。
消費者としては、遅くまで営業してくれること、休日・祝日・年末年始でも近くにあることが本当に助かります。

  • 病院に行けない時間帯に、市販薬で“つなぐ”必要がある
  • 土日祝に体調を崩しやすい人ほど、ドラッグストアが最後の頼みになりやすい
  • 年末年始やGWは病院が休みになり、頼れる先が限られる

ドラッグストアは「便利」なだけでなく、地域の医療のすき間を埋める存在になっています。

「薬剤師がいないと売れない」は現実。だから矛盾が起きる

ルール上、薬剤師が必要な薬や業務があります。薬剤師がいないと「売れない」「受けられない」ものが出てくる。夕方になると「この薬は売れません」という状況が起きることもあります。
消費者から見れば不便ですが、これは裏を返せば「安全のためのブレーキ」が働いている状態でもあります。

しかし、便利さへの期待が高まっている現実もあります。
「閉めたら怒られる」「短縮したら責められる」「売上が落ちたら困る」――そういう空気が強いほど、現場には危険な誘惑が生まれます。最悪の解が、「本当は止めるべきなのに、無理に営業を続ける」ことです。

合併は止まらない。だから“現場の根性”ではなく“仕組み”で解く

合併や買収、巨大化はビジネスとして今後も起きます。完全に止めるのは現実的ではありません。
だから必要なのは、「現場の根性」や「個人の善意」に頼らず、人が足りないときでも、法律を守りながら回せる仕組みを作ることです。

仕組み案①:店舗運営の「止め方」を標準化する

  • 人が足りないときは営業時間を短縮する
  • 対応範囲を段階的に落とす(調剤・要指導/第一類を停止、相談導線を残す等)
  • 応援・引き継ぎ・記録の手順を統一する

仕組み案②:オンライン販売で「時間の穴」を埋める

夜間・休日に店頭が弱いとき、オンラインで需要の逃げ道を作れます。
ただし自己判断を強めやすいので、注意点・禁忌・受診の目安が見える導線が必要です。

仕組み案③:AI問診(AIの聞き取り)で見落としを減らす

AIは薬剤師の代わりではありませんが、聞き漏らしを減らす補助輪になります。
持病・併用薬・アレルギー・妊娠などを漏れなく確認し、危険サインが出たら受診推奨や薬剤師への引き継ぎを強く出す。繁忙時のミスを減らす現実的な手段です。

まとめ

薬は体内に入れるものです。
ヒューマンエラーは必ず起きますし、経済的な理由で不正が行われるリスクも、常にゼロにはなりません。だからこそ私たちは、「便利さ」だけを前提にせず、薬には必ずリスクがあるという現実を共有したい。

そして消費者としてできる現実的な自衛は、難しいことではありません。
薬の添付文書をしっかり読む癖を付けること。
禁忌や注意、飲み合わせ、受診が必要な症状を確認するだけで、トラブルは確実に減ります。

ドラッグストアが身近で頼れる存在であり続けるためにも、現場に無理を押しつけない仕組み(段階運用・オンライン・AI問診)を整えながら、利用する側も“読む・確認する”という基本を取り戻してはいかがでしょうか。